私が経絡指圧に気功を取り入れた世界初となる経絡気功指圧による治療を始めた頃、達人の気功治療というものを実際に受けてみたいと思い、あちこちの気功治療院巡りを行っていた。
言うなれば料理家が休日に有名店や評判の良い店を食べ歩くようなものだ。
ただし、当時はまだインターネットというものが存在しなかったので、著書や人づて等々、治せる気功治療家がいると聞けば西へ東へと遠方まで出かけた。
尊敬せずにはいられない気功治療家と出会えたならば弟子入りを願い出る魂胆も腹の底にはあった。
例え遠方であれ弟子になれるのであれば、通いでも、住み込みでも何でもやるつもりでいた。
私もまだ若かったのだ。
ところが、実際に治療を受けるに際して一つ問題があった。
私は今も昔も至って健康なので、特に治療してもらいたいという症状がない。
よって、適当に腰痛や膝痛など嘘の症状を伝えては治療してもらっていた。
そんなある時、何となく机の上に置いた前腕の内側を指差して、
「このあたりの骨が痛みます」
と、伝えた。
するとその気功治療家は、
「とう骨が痛むんですね」
と言った。
「ん???これは尺骨やろ?もしかしてとう骨と尺骨の区別もつかんのか?」
と、内心思うと同時に、
「これは使える!!」
と、瞬間的に閃いた。
とう骨と尺骨、あるいは、けい骨と腓骨の区別がつかないということは、解剖学の知識はもちろんのこと、生理学その他の医学知識もほぼゼロであると推測できる。
いくら国家資格の要らない気功治療家といえども、これではあまりにお粗末過ぎる。
国家資格が要らないからこそ、むしろその分懸命に勉強すべきではないのか?
以来、気功治療家に症状を説明する際、尺骨や腓骨を指差して、
「ここが痛むんですけど、この骨、何て言うんでしたっけ?」
という質問を必ず行うようにした。
その結果、ちゃんとした答えが得られたのは約1割程度という恐ろしい事態になった。
私が世の気功治療家と自称する人種を強く疑うようになったのはこの頃からだ。
しかしながら、それと同時にとても嬉しくもあった。
「世の気功治療院がこれほどまでにお粗末であれば俺の治療に患者が殺到しないわけがない!!」
という大いなる自信を得たし、実際にそうなった。
ちなみに、上記の約一割の正解者以外のその他約九割においては、質問を無視されるか、何やらムニャムニャとごまかされるか、あるいは珍回答のオンパレードであった。
「それは前腕骨(ぜんわんこつ)です」
と、大まじめに答えられた時はたまらず爆笑しそうになったのを必死に堪えたのが懐かしい。
このようなことが続くと私の気功治療家巡りも徐々に足が向かなくなり、ついには止めてしまった。
その結果、以後も経絡ホメオパシー療法など独自の路線を歩むこととなったので、これはこれで良かったと天の導きに感謝している。
本物とニセモノの区別が付かない、
マンションの一室などを利用すれば初期投資が少額で済む、
等々の理由により、気功治療は素人でも手っ取り早く参入しやすい業界である。
あれから時代を経たからといって根本的な事情が変わったとはとても思えない。
否、ネットやSNSが出現して更に酷い状況にあるのではないか?
よって、もしあなたがどこかの気功治療院で治療を受けてみようと検討しているのであれば、あるいは、継続して気功治療を受けるのか否か検討しているのであれば、私がやったような質問、つまりはとう骨と尺骨、又はけい骨と腓骨の違いを問うような質問をぜひしてみるべきだ。
一般常識に含めていい程度の質問であるので、まともに答えられたからといってその者に医学的な知識が保証されるわけではないが、答えられなかった場合、人体を相手に仕事をするに当たって最低限度の勉強もしていないということになる。
よって、半ば冗談で書いているように思われるコラムかもしれないが、私は至って大まじめ。
上記の質問によるチェックは必ず行ってみるべきである。